生前贈与を失敗させない為に行うべき事とは

メディアで必要性が良く取り上げられる事もあり、「生前贈与」を考える方は多くいらっしゃいます。しかし、実は、「生前贈与で失敗した」と後悔される方は少なくありません。

生前贈与を計画されている方の多くは、「相続税などの税金に関する注意点」ばかりを気にされます。しかし、生前贈与を失敗させない為には、その他にも注意すべき点があるのです。

この記事では、相続対策としての生前贈与を考えている方の為に、「生前贈与の注意点」をFPとして多くの生前贈与を見てきた立場から解説します。

生前贈与を検討中の方は、後から失敗したと後悔しない為に、ぜひ、お読み下さい。

生前贈与の意味と目的

生前贈与とは、「自分(または誰かの)財産を、その人が生きている間に、他の人に贈与すること」です。一般的には、配偶者や子などの親族に対して、資産を無償で譲り渡す事を指します。

生前贈与を行う目的は、「自分(または誰か)が死んで相続が発生した場合に、財産(遺産)を受け取る側が相続税で少しでも困らないようにする」という事です。

ただし、その他にも、「自分の意思通りに財産を移転させたい」という目的の為に生前贈与を考える方もいらっしゃいます。

自分の思い通りの財産処分をする為には、「(生前贈与ではなく)遺言書を書けば良い」と考える方もいらっしゃる事でしょう。しかし、遺言書は万能ではありません。実は、遺言書の内容通りに遺産が処分されないケースは珍しくありません(法律上、より優先度の高い処分が認められるケースがある為)。この為、自分の思い通りの財産処分をしたいのであれば、生前に財産を移転させておいた方が確実なのです。

失敗事例から学ぶ生前贈与が失敗する3つの理由

生前贈与を計画されている方が、「生前贈与は難しい」と認識されているケースは稀です。しかし、実際に生前贈与を行った方が、「自分が行った生前贈与は失敗だった」と後悔されるケースは少なくありません。

そして、そのような失敗事例を分析すると、3つの理由で失敗しているケースがある事が解ります。

財産を減らす量やペースの失敗

実は、「自分の財産のうち、どの程度の割合を生前贈与すべきか(生前贈与しても問題ないか)」という判断は、非常に難しいのです。

現代は寿命も延び、「人生100年時代」と言われています(勿論、それ以上に長生きされる方も多くいらっしゃいます)。また、医療が発達した事により、医療費が高額になる事もあります。

この為、「死ぬまでに必要となる財産の大きさ」は、以前とは大きく異なるのです。

そして、生前贈与した財産は、二度と自分には返ってきません。

ですから、老後を不安なく過ごし、また、周囲に迷惑をかけない為には、「後から自分が困らないだけの財産の大きさ」を真剣に分析し、「自分が必要となる財産は自分の所に残しておく」という事が大切なのです。

勿論、生計を同じくしている人がいる場合には、その人の事も考えなければいけません。生活が困らないようにする事は勿論ですが、相続時の負担のような臨時出費の事も計算に入れておく必要もあります。

そのような様々なシミュレーションを踏まえた上で、「自分の所に残しておかないといけない財産の大きさ」は決める必要があり、それが、「生前贈与をしてはいけない財産」となるのです。

しかし、生前贈与を考えている方の多くは、「相続税の削減効果を大きくする」といったメリットばかりに意識が向いてしまい、「生前贈与を行った後に、自分の生活がどうなるか」という点についての分析が不十分なケースが多いのです。

その結果、生前贈与する事により、「自分が必要とする財産が不足してしまう」という失敗をしてしまう事があるのです。

なお、「自分が必要とする財産の大きさ」は、その人の生活水準や健康状態などの他、加入している保険の内容によっても影響を受けます。この為、保険を追加する事で、生前贈与によるリスク拡大に備える事が出来る場合もあります。

また、移転させる「財産の大きさ」だけではなく、移転させる「時期」や「ペース」にも注意が必要です。

少し悲しい話ではありますが、生前贈与で財産を子供や孫に移転させると、その後から、「子供や孫との関係が悪化した(疎遠になった)」という事例は少なくありません。

更に、子供や孫に大きな財産を移転させた事で、「子供や孫の金銭感覚がおかしくなってしまった」といった問題が発生し、「子供や孫の為にならなかった」と後悔される事例も目にします。

ケースバイケースとはなりますが、子供や孫の事を本当に考えるのであれば、「財産の移転は、長い時間をかけて行った方が良い」や「生前贈与は行わない方が良い」というケースもあるのです。

ですから、生前贈与を行う場合でも、様々なリスクを踏まえた上で、「どのくらいの量の財産を、どのような方法で生前贈与するべきか」という事は決めるべきです。なお、財産を移転させる方法には様々なものがありますので、その選択によって軽減する事が出来るリスクもあります。

適切な資産バランスが崩れる失敗

また、「移転させる財産の額」とは別に、贈与する側が気をつけておくべき点もあります。それが、「生前贈与を行った後の、自分の資産バランス」の問題です。

これは、生前贈与を検討されている方の多くが見落とされているポイントです。

意識されている方は少ないのですが、生前贈与を行う事で、自分が所有する資産の種類が、「ある種類の資産に偏る」という現象が起きる事があります。そして、その事によって、「自分の生活が苦しくなる」や「財産は十分に残っているのに、必要なお金に困る」といった事態が起きてしまう事があるのです。

特に問題となるのは、「収益性」と「換金性」の問題です。

「収益性」の問題とは、「収益資産(収入が発生している不動産)などを贈与した場合に、自分の収入が減る(なくなる)」という問題です。もっとも、この問題は予想しやすい点ですので、事前のシミュレーションで問題を把握される方が殆どです。

見過ごされがちなのは、「換金性」の方の問題です。

生前贈与を考えるのは高齢の方(または、何かの事情があり、余命が限られる方)が多いのですが、そのような方の場合、生前贈与を行った後、「自分の財産でも、自由に売却したり、現金に換えたりする事が出来ない」という経験をされるケースが少なくありません。

これは、取引にあたって、「十分な行為能力を持っていないのではないか」と疑われた場合に発生する事が多いのですが、近年では決して珍しくない出来事です。その他、家族の反対などで、売却する予定だった財産を売却できなくなるようなケースもあります。

その結果、「不動産や有価証券などの財産はあるのに、必要となる現金が足りなくなる」や「銀行預金はあるのに、現金が引き出せない(使えない)」といった問題が発生する事があり得るのです。

生前贈与の実行にあたっては、このような失敗も避けるようにしなければなりません。

贈与先が望んでいなかったという失敗

最後に、「贈与される側が、贈与される事を望んでいなかった」という失敗理由についても紹介しておきましょう。

「(贈与を受ける事によって)財産が増える事が嫌」というケースは稀ですので、この理由は、「贈与される側が、違うかたちでの贈与を望んでいた」という表現の方が適切かもしれません。

贈与する側は、「贈与される側は喜ぶはずだ」と考えてしまいがちです。しかし、贈与される側にも様々な事情があります。

例えば、贈与される側に、「他の親族との間で相続対策を進めており、今は贈与額が増えると困る」や「今は不動産を所有したくない」などの事情がある事は、決して珍しくないのです。

そして、残念ながら、生前贈与を考えている側が、そのような贈与される側の事情を十分に把握出来ているケースは稀です。そのような事情は非常にデリケートな話題である事が多く、関係の良い親族間であっても、素直には事情が教えて貰えないケースは多いのです。

生前贈与の失敗を避ける為に行うべき2つの対策

生前贈与を失敗させない為には、このような理由による失敗を避ける必要があります。

そして、このような理由による生前贈与の失敗は、次の2つの対策を事前に行う事で回避する事が可能です。

1.生前贈与した後のシミュレーション(ライフプランニング)

2.生前贈与に関係する人が抱える事情の把握(ヒアリング)

この2つの対策を行い、見つかった問題に対応した上で生前贈与を実行すれば、前述のような問題は発生しません。

生前贈与を失敗させない為の対策とFP

そして、この2つの対策は、実はファイナンシャルプランナー(FP)の得意分野なのです。

FPは、「生活資金についての専門家」です。この為、老後の資金に関するシミュレーションは得意です。勿論、そのシミュレーションの結果をもとに、「生前贈与を行った後に、どのくらいの資産が残っていないといけないのか」というアドバイスも可能です。

また、高齢者などの「財産管理」や「生活支援」に関する経験が豊富なFPも多く、そのようなFPは、「高齢者などが、どのような財産管理上のトラブルに巻き込まれる事があるのか」も熟知しています。

更に、FPが行うライフプランの改善は、本人だけではなく、家族との関係を踏まえた対応が必要になる事が多くあります。この為、多くのFPは、「周囲の人の事情を把握し、それを踏まえながら、適切な解決策をまとめていく」という作業にも慣れています。

前述の通り、贈与される側の事情はデリケートなものであるケースが多く、当事者同士で話し合っても、コミュニケーションが失敗するケースは多いと言えます。しかし、そのような場合でも、外部の専門家が入る事で状況が改善できるケースは多いのです。

ですから、生前贈与について検討されている場合には、「FPへの相談から始めてみる」という事もご検討下さい。ここまで説明してきた通り、生前贈与を成功させる為にFPが果たす役割は大きいのです。そして、他の分野の専門家が必要になった場合でも、多くのFPは様々な専門家と連携しています。FPへの相談が無駄になる事はありません。

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