遺言書の効力を高める為の準備

遺言書は弁護士などの専門家に依頼すれば、有効性に問題のないものが作成できます。市販の本などを活用すれば、自分で遺言書を作成する事も可能です。

しかし、遺言書の作成においては、「遺言を作成した人(遺言作成者)が死んだ時の処理に問題がない」という点ばかりが重視され、「遺言作成者の希望を高い水準で実現させる」という視点が抜けがちです。

そして、遺言作成者の希望を叶える事が出来る遺言書を作成する為には、遺言書のリスクを踏まえた準備作業が必要となります。

この記事では、「遺言書のリスク」や「遺言書のリスクを回避し、遺言書の効力を高める為に行うべき準備作業」について、FPとして関連業務に携わってきた立場から解説します。

法律的に有効な遺言書のリスクとは

法律的に問題のない遺言書であっても、「遺言作成者の希望を叶える」という点では問題がある事があります。なぜならば、有効な遺言書にも2つのリスクがあるからです。

1つ目のリスクは、「遺言書が無視される」というリスクです。

具体的には、「相続が発生した際に、遺言書を見つけて貰えない」といったリスクや、「遺言書の内容が、相続人によって無視されてしまう」といったリスクです。このようなリスクが現実のものとなった場合、せっかく作成した遺言書は無駄になってしまいます。

2つ目のリスクは、「遺言書の内容が実態に合わなくなってしまう」というリスクです。

実は、遺言書があり、その内容通りに遺産を分けようとしても、遺言作成者の意志を十分に反映した分配が出来ないケースがあるのです。

そして、このリスクについては、法律の専門家であっても、適切な対応が出来るとは限りません。なぜならば、このリスクに対応する為には、法律とは関係ない分野の準備が必要になるからです。

この記事では、まず、この2つ目の「遺言書の内容が実態に合わなくなってしまう」というリスクへの対応について、解説を行います。

遺言書の内容が実態と合わなくなる理由

遺言書の内容が実態と合わなくなる理由には、様々なものが考えられます。

まず、不動産などの財産の価値に変動があった場合、「財産の総額」や「それぞれの相続人が受け取る事になる財産の価値」は大きく変化します。

また、「相続人の数の変化」や「税制の変更」などにより、遺言書作成時とは「前提」が変わってしまう事もあります。

更に、遺産を受け取る側の事情の変化によって、「各相続人が望む財産の内容」が変わる事もありますし、「納税資金を準備できない」などの事情が相続人側に発生する事もあります。

このような様々な理由により、作成時には問題がなかった遺言書であっても、「遺言書の内容が実態と合わなくなる」というケースは多いのです。

特に、遺産の分配にあたっては、ご存じの方も多い「遺留分」の問題があり、この点への配慮が不十分な遺言書の場合、遺言書の内容通りに分配する事すら難しくなります。

この為、このような様々な事態が発生する事を想定して遺言書は準備する事が好ましく、また、想定外の事態が発生した場合には、必要に応じて、遺言書の内容は見直す必要があるのです。

ただし、遺言書の内容が実態と合わなくなる理由の中には、「準備を入念に行わないと対応が出来ない理由(リスク)」も存在します。

それが、「相続発生までに遺言作成者の財産が減少する事で、遺言書の内容が実態と合わなくなる」というリスクです。

このリスクについては、遺言書作成後に確実に発生するリスクであるにも関わらず、遺言作成後の長い期間で深刻になっていくリスクである事もあり、専門家が関わって作成された遺言書であっても、十分な配慮がされていないケースが多いと言えます。

遺言書のリスクを避ける為に行うべき対策の方向性

様々な遺言書のリスクに対応する為に行うべき対策には、2つの方向性があります。

1つ目の対策の方向性は、「作成した遺言書を定期的に見直す」という事です。

2つ目の対策の方向性は、「変化に強い遺言書を作成しておく」という事です。

この2つ方向性の対策を組み合わせる事で、遺言作成者の意図通りの財産分配を実現させる事が可能になります。

そして、そのような対策を行う上では、まず、準備作業として、「今後のシミュレーション」を行うべきです。

遺言書の作成前に行うべき今後のシミュレーションとは

遺言書を作成する前に行っておいた方が良い「今後のシミュレーション」とは、「遺言書の内容が実態と合わなくなる要因(リスク)を予想する」という作業です。

前述の「相続人の様々な事情の変化」や「制度の変更」などを予想する事も大事ですが、特に重要なのは、「これから遺言作成者に発生するイベントを確認し、財産の変化を予想する」という作業です。

そして、様々なシミュレーションの結果を生かした内容で遺言書を作成する事で、遺言書作成後に様々なイベントが発生した場合でも、問題がない状態が維持できるようになります。

また、シミュレーションの結果を利用する事で、「財産構成を見直し、変化に強くする」といった作業を行う事が出来るケースも多くあります。その場合、「自分自身の老後の生活で、必要なお金が足りなくなるような事態を防ぐ」といったメリットも期待出来ます。

効力の高い遺言書の作成と見直し

遺言書の内容が固まった後には、実際に、「遺言書を作成する」という作業に移る事になります。

前述の通り、遺言書は自分で作成する事も出来ます。

しかし、遺言書の内容が実行に移されるのは、遺言作成者が亡くなった後です。この為、「相続人以外で、遺言書の内容を知っている人を存在させる」という意味でも、第三者を加えた検討をお勧めします。

やはり、前述の1点目のリスクである「遺言書が無視される」というリスクについては、実行時にこの世にいない遺言作成者だけで行える事には限界があります。

遺言書の執行(遺産の分配など)への関与度合いは別にしても、「遺言書の内容を知っている第三者が存在する」という事が、関係者にとって大きな意味を持つケースは多々あります。

また、これも前述の通りですが、制度変更などによっても、遺言書は見直す事になります。そのような対応を欠かさない為にも、遺言書の実務に詳しい専門家との関係は築いておく事をお勧めします。

遺言書作成の準備作業とFP

もし、「遺言書作成の準備作業を専門家に手伝ってもらいたい」と思われた場合には、FPへの相談も検討される事をお勧めします。

なぜならば、遺言書の作成に関連して行う作業は、FPが日頃行っている業務と直結している内容だからです。

FPが行うファイナンシャル・プランニングでは、将来の様々なイベント予想を踏まえて、相談者の資金についてのシミュレーションを行います。また、そのシミュレーションをもとに、様々な改善を提案したり、実行の支援を行ったりします。

そして、支援にあたっては、長期的な関係を相談者との間で築く事が必要となる場合も多く、多くのケースでは、定期的に「作成されたプランと現実の差を確認する」という作業を行い、見直しも行います。

このような業務を通じて、FPは相談者の人生をより良いものにするお手伝いをしているのです。

このように、「ファイナンシャル・プランニングに関する作業」と「遺言書のリスクに対応する為の作業」は、極めて類似点が多いのです。ですから、遺言書の為の準備作業を手伝って貰う専門家として、FPはピッタリなのです。

もし、老後の資金について不安がある場合には、遺言書だけではなく、「老後の資金に関する問題全般」についてFPに相談し、「ファイナンシャル・プランニングの一貫として、遺言書の作成も手伝って貰う」という進め方もお勧め出来ます。

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